心と思考の学び
言いたいことを、角を立てずに言う — アサーションと自信の育て方
作成日: 2026-07-07
学びラボ
アサーション研究・心理学より
我慢しすぎず、押し付けもしない。自分も相手も大切にする伝え方は、練習で身につきます。
苦手でも大丈夫。研究者名と年は、詳しく読みたい人向けに末尾の文献に残しました。
00まず結論
真ん中の伝え方アサーション=自分も相手も大切にする伝え方
角を立てずに自分の意見を伝えること(アサーション)です。言えずに我慢しすぎるのでも、押し付けるのでもない、その真ん中を目指します。
差は性格より自信得意・苦手の差は「自信」と「小さな成功の量」
生まれつきの性格の差だけではありません。自分ならできるという感覚(自己効力感)と、自分を大事に思う気持ち(自己肯定感)、そして成功体験の数が効きます。
練習で変えられる6週間のスモールステップで、苦手でも変わる
難しいことはしません。小さく言ってみて、反応をもらい、できた自分を認める。この繰り返しで、苦手でも必ず変えられます。
一言でいえば
アサーションは、自分の意見や気持ちを率直に伝えながらも、相手を否定しない伝え方です。研究では、この伝え方ができる人ほど対人ストレスが少なく、自分を大事に思う気持ち(自己肯定感)も高い傾向が示されています。この記事は、配信でリスナーやコラボ相手に向き合う砂糖さんのように「言いたいことをうまく言えない」と感じる人に、そのまま役立つ内容です。
01アサーションとは
伝え方には大きく3つのタイプがあります。アサーションは、その真ん中にあたる伝え方です。
| タイプ | どんな伝え方か | 起きやすいこと |
言えずに我慢するタイプ (非主張型) | 相手を優先しすぎて、自分の主張を抑える。本音を飲み込む。 | 不満がたまり、誤解や我慢が積み重なりやすい。 |
アサーティブ (真ん中) | 「私は〜と感じる」と自分の気持ちを伝えつつ、相手も否定しない。 | 互いを尊重でき、信頼関係を築きやすい。 |
押し付けるタイプ (攻撃型) | 自己中心的に主張して、相手を圧迫する。 | 相手に負担をかけ、関係がぎくしゃくしやすい。 |
Iメッセージという伝え方
アサーションでよく使うのが、「私は〜と感じる」と主語を自分にした伝え方(Iメッセージ)です。「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じた」と伝えると、相手を責めずに気持ちを届けられます。この伝え方は1950年代の行動療法から発展し、互いに尊重し合う関係づくりに使われてきました。
アサーションの土台は「自信」
アサーションの土台になるのが、自分ならできるという感覚(自己効力感)です。心理学者バンデューラは、この感覚が行動を後押しすると説きました。その自信は、次の4つから育つとされています。
| 自信が育つ4つの源 | 中身 |
| 成功体験 | 自分で「できた」を実際に経験する。いちばん強い源。 |
| 人の成功を見る | 似た人がうまくやる様子を見て「自分にもできそう」と思う。 |
| 励まし | 信頼できる人から「あなたならできる」と言葉で背中を押される。 |
| 心の状態 | 緊張しすぎず、落ち着いた気持ちでいられること。 |
配信でいうと
「できた経験」を小さく積むのが近道です。短いひとことでも、言えたら自分をほめる。その積み重ねが、次の一歩の自信になります。
02得意な人・苦手な人の違い
得意な人と苦手な人の特徴を6つの点で並べます。大事な前提を先に書きます。苦手=劣っている、ではありません。ただ傾向が違うだけです。
得意な人(アサーティブ)
- 自己評価自分を大事に思う気持ち(自己肯定感)や自信が比較的高い。失敗しても「今回はダメでも自分に価値はある」と捉える。
- 考え方「自分も相手も大切にできる方法は?」と考える。互いの権利を認め、建設的に対話しようとする。
- 伝え方自分の気持ちや要望を「私は〜」と率直に伝える。自己主張と相手への配慮のバランスがとれている。
- 感情・行動怒りや不満も適度に出して対処できる。ストレスをためにくい。
- 対人関係率直なやりとりで信頼関係を築く。意見が違っても建設的に解決できる。
- 対人ストレス対等に意見を交わせて、ストレス反応がいちばん低い。
苦手な人(言えずに我慢するタイプ)
- 自己評価自己肯定感が低めで「自分はダメだ」と思いがち。他人の評価に左右されやすい。
- 考え方「言ったら相手が嫌な気持ちになるかも」と遠慮や不安が先に立つ。
- 伝え方本音を飲み込み、相手に合わせがち。「いいですよ」「構いません」で終わりやすい。
- 感情・行動強い不安や緊張を抱えやすく、問題を一人で抱え込む。小さな失敗でも深く落ち込みやすい。
- 対人関係遠慮や怒りの抑え込みが積もり、誤解や不満がたまりやすい。
- 対人ストレス研究でも、我慢するタイプや押し付けるタイプは、ストレス体験も反応も大きいと示されている。
大事なこと
聞き役が得意なのも一つの良さです。苦手なのは、これまで練習の機会が少なかっただけ。傾向は、練習でちゃんと変えられます。
03なぜ苦手になるのか
苦手さの原因はひとつではありません。研究をもとに、大きく4つの壁を挙げます。共通するのは、どれも自信を下げてしまう点です。
壁1:考え方 — 拒絶される予感
「他人から拒否されるかも」「自分の意見は間違っているかも」という否定的な考えが根強いと、言葉が出にくくなります。
壁2:気持ち — 不安と羞恥
強い不安や恥ずかしさが、行動にブレーキをかけます。人前での強い緊張・不安があると、なおさら言いづらくなります。
壁3:文化 — 和を乱さない風土
日本では「和を乱さない」「相手に配慮する」文化が根付いています。相手を重んじるあまり、無意識に自己主張を抑えてしまうことがあります。
壁4:過去の経験
幼いころや職場で「意見を言ったら叱られた」「封じられた」経験があると、気持ちを表すことに強いブレーキがかかります。
共通するのは「自信の低下」
どの壁も、結果として自己信念(自信)を下げます。「自分には価値がない」「意見を言う資格がない」というまちがった思い込みを抱きやすくなるのです。ここを解きほぐすのが、次からの練習です。
04身につける5ステップ
習得は、段階を踏んで、繰り返すのが効果的です。安全な場で練習してから、日常で少しずつ挑戦します。
ステップ1 自己理解自分の感情・考え・権利をはっきりさせる — どんな場面で言えないかを整理する
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ステップ2 理論と型を学ぶIメッセージと、状況→気持ち→要望→結果の順で伝える型(DESC法)を学ぶ
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ステップ3 ロールプレイ練習役を演じて安全に練習 — 仲間と反応を伝え合い、成功体験をためる
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ステップ4 日常で実践+日記実生活で少しずつ試す — 結果や気持ちをアサーション日記に記録する
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ステップ5 振り返りで自信強化できたこと・不安だったことを振り返る — 自分ならできる感覚(自己効力感)が育つ
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ゴール自己主張が、無理のない自然な行動へと変わっていく
2つの型を覚えておく
- Iメッセージ:「私は〜と感じる」と主語を自分にした伝え方。相手を責めずに気持ちを届けられます。
- DESC法:状況(Describe)→気持ち(Express)→要望(Specify)→結果(Consequence)の順で伝える型。この流れに沿うと、落ち着いて要望を伝えられます。
056週間プラン
少しずつ実践の経験を増やす、6週間の計画例です。日記と振り返りを重ねながら、無理なく1つずつ進めます。
1週目
自己理解
- 言えなかった場面・言えた場面を振り返る
- 自分の価値観や優先したいことを整理する
- 宿題:1日の終わりに、感じたこと・言いたかったことを日記に書く
2週目
Iメッセージ
- 「私は〜と感じる」と言う練習をする
- ペアで気持ちを伝えるロールプレイ、DESC法も少し練習
- 宿題:家族や周りに「ありがとう」を1日1回、自分を主語にして伝える
3週目
断る練習
- 頼まれごとを丁寧に断る練習をする
- 「ごめん、でも〜」と建設的に断る言い方を試す
- 宿題:断ったときの気持ちと相手の反応を日記に書く
4週目
実生活チャレンジ
- 実際の場で、1点でも自分の意見を言ってみる
- 緊張する場面は、事前にメモを用意してから話す
- 宿題:実践の前後で、自分の感情と相手の反応を記録する
5週目
表情・態度など非言語
- うなずき・適度な目線・姿勢で気持ちを伝える練習をする
- 声のトーンや話す速さにも気を配る
- 宿題:気づいたこと・学びを記録する
6週目
振り返りと定着
- これまでの日記や経験を見返し、成功体験を再確認する
- 「1ヶ月後の目標」など次の課題を立てる
- 信頼できる人からの励ましを、支えとして整える
進め方のコツ
まず安全な場(ペア練習)で試し、次に実生活で挑戦する。このスモールステップの繰り返しで、毎週の振り返りごとに「自分でもできる」という確信が少しずつ強くなります。
06進み具合の測り方
成長を実感するには、数字と記録の両方を使うのがおすすめです。
その1:尺度で前後を比べる
アサーションの度合いを測るチェックリストがあります。「権利主張」「自己信頼」「自己開示」「受容性」「断る力」「対決」などの項目で、自己表現のバランスを見られます。練習の前と後で比べると、変化が客観的に分かります。
その2:アサーション日記をつける
実践した自己表現を、こまめに記録します。書くのは次の4つです。
- 言えたか・言えなかったか
- 相手の反応
- そのときの自分の感情
- 週ごとに読み返して傾向を確かめる
改善のサイン例:言えなかった場面が減った割合、後悔やストレスの自己評価が下がったこと、「前より自信があるね」と言われる機会が増えたこと。
07よくあるつまずきと対処
練習の途中でぶつかりやすい壁と、その乗り越え方をまとめます。
つまずき
- 拒絶が怖い主張したら拒まれる、と先に想像して動けなくなる。
- 自己否定の思考「どうせ自分なんて」「相手に迷惑」と否定的な独り言が強い。
- 完璧主義・遠慮最初から完璧に言おうとして、挫折してしまう。
- 体の緊張心臓がドキドキして、声が出なくなる。
- 職場や文化の壁「言っていい」と言われても、実際には言いにくい空気がある。
対処法
- 拒絶が怖い最悪の場面を具体的に想像し直し、小さい場面から少しずつ慣らす。
- 自己否定の思考「本当にそう?」と問い直し、「自分にも意見を言う権利がある」と考え方を書き換える練習(認知再構成)。
- 完璧主義・遠慮ゆるい目標から。まず「ありがとう」を1日1回言うところから始める。
- 体の緊張呼吸法や軽いリラックスを併用。強い緊張なら小さい場面から少しずつ慣らす。
- 職場や文化の壁信頼できる同僚に相談したり、メールや文書など言いやすい手段も選択肢に入れる。
過去のつらい経験が背景にあるとき
強く言えない背景に、叱られた経験など過去のつらい経験による心の傷がある場合もあります。堀(2021)は、意見を言っても許されなかった経験を持つ人は、怒りや恐怖が抑えられ自己評価が下がりやすいと指摘しています。そうしたときは、安全な環境で内面を見つめるカウンセリングを並行することが大切です。
続けるための支え
研究では、学びが続く鍵として「実践記録(日記)」と「続けてもらう前向きな声かけ」が挙げられています。失敗しても励まし合える仲間やメンターがいると、やる気が保たれます。
08実例(匿名ケース)
実際にアサーションを身につけたAさんの例です(仮名・20代後半の会社員)。
はじまり — 言えずに後悔
Aさんは、会議や打ち合わせで自分の意見を言えず、あとで後悔することに悩んでいました。小さいころから「人の顔色を伺え」と育てられ、「遠慮=優しさ」と考える癖が残っていました。自己肯定感が低く、提案しても否定されるのでは、という強い不安を抱えていました。
経過 — 小さな成功で自信がついた
- まず自己理解として、言いたかったのに言えなかった場面をノートに書き出した。
- アサーションを学び、「自分にも発言の権利がある」と再認識した。
- Iメッセージのロールプレイで意見を述べ、「ありがとう」と肯定的な反応をもらって自信をつけた。
- 実際の会議で、小さな意見を発言。上司から「いいアイデアだね」と評価された。
- 前後で日記をつけ、言えたこと・言えなかったことを記録し続けた。
学び — 自信の作り直しが鍵
はじめは声が震えていたAさんも、小さな成功体験を積むうちに「私にも意見を言う力がある」という信念へ変わりました。指導者との信頼関係(励まし)と日記(成功体験の積み上げ)を通じて自信が育ち、3ヶ月後には率直に意見を交わせる場面が増えたそうです。苦手でも、練習で必ず変えられます。
◆主要参考文献
この記事の事実・数値・研究名は、次の6件にもとづきます。詳しく読みたい人向けに残します。
- 藤井淳子・仁平義明(2026)「包括的アサーション・トレーニングと効果の検証」『産業・組織心理学研究』39(2), 199-210
- 関口奈保美ほか(2011)「大学生におけるアサーションと対人ストレスの関連」『ストレス科学研究』26, 40-47
- 山根由梨・深見俊崇(2016)「児童のアサーションと自尊感情の関連」『教育臨床総合研究』15, 107-121
- 堀有伸(2021)「ほどよい自己主張が可能となるために考えること」『日本医事新報』第4830号(識者の眼連載)
- 平木典子(2021)『アサーション・トレーニング(三訂版)』金子書房
- その他、心理学概論・認知行動療法関連文献およびアサーション・トレーニング実践書。